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社長は食中毒の被害拡大を聞いた後でも、「事業部制である以上、公表などの権限は担当役員にある」として、自ら決断しようとはしなかった。 右のケースで目につくのは、自己保身のために、問題の顕在化を徹底して抑えようとする姿勢と、起きている問題は「自分の問題ではない」とする逃げの姿勢だ。
顧客を第1に考える姿勢さえはっきりしていれば、決してこんな決断にはならなかったはずだ。 O氏が、よくいっていた。
「問題があっても代案を考えないのは、越権行為になるからと遠慮しているのではなく、ただの責任転嫁にすぎない社員研修で見かける光景に、みんなで作業を進めていて、結果的に失敗すると、「やっぱりまずいじゃないかと思っていたのだ」と、聞こえよがしにいう人が必ずいる。 「なぜやっているときにいわないあとで」と聞けば、たいてい「余計なことをいって雰囲気をこわしたくなかった」などと言い訳をする。
所詮は何かをいって、失敗したときに責任を関われるのがこわかったにすぎないのに、自分には失敗がわかっていたといった評論家みたいな口をききたがる。 これなども責任逃れと自己保身にすぎない。
「この問題は誰の問題だ」と聞くと、「会社にとって大きな問題です」と答える。 本当は「あなたの問題である」にもかかわらずだ。

これではただの社内評論家にすぎない。 スタッフからもよくこんな悩みで相談を受ける。
「せっかくいい案を考えても、現場がちっともいうことを聞いてくれません。 なんとかいい知恵はありませんか」と。
時にスタッフだけがいい案だと思っていて、現場にとっては仕事が悩唱えるだけの厄介な案にすぎない場合もある。 あるいは、かつてスタッフや上司が、権力をもって無理にある案の実行を強制したために、そのときの経験でお互いの信頼関係が崩れている例もある。
何より大切なのは、考えるだけではなく、スタッフ自身が現場に立って、問題を解決し、一緒に改善に取り組むという姿勢だ。 T生産方式を導入しようとするトレナは、口頭で説明するよりも、自ら現場に立つ。
1日みっちり「新しいやり方」でモノをつくってみせる。 大切だ。
それで初めて現場は納得する。 社会や会社の問題点を指摘する人は多い。
自ら代案を考えて、自らの手で実行しようとする人はあまりに少ない。 何ごともそうだが、具体的な対策もなしに、問題だけを指摘しても人は決してあなたを信用してはくれない。
T生産方式では、機械が故障し、ラインに異常が生じたときには、現場の判断でただちにラインを止める。 故障を知らせるブザが鳴ると、ただちに監督者が飛んでいく。
自分だけでは無理だと思ったら、すぐに専門の人間を呼ぶ。 といっても、外部の会社を呼ぶわけではもちろんない。

T生産方式では、自分たちで機械を改善しているので、機械の仕組みゃ癖を実によく知っている。 だから、機械メーカーを呼ばなくても、自分たちの手で直せる場合が多い。
現場で働いている人のなかには、電気や溶接の資格を持っている人も多い。 改善のために、また自分自身のレベルアップのために、率先して資格取得を目指している。
設備のほとんどを業者任せにしていたら、そうはいかない。 業者に来てもらうだけでも時聞がかかるし、何より「ここを改善したい」と思っても、自分たちの思いどおりにはならない。
余計な時聞がかかったうえに、タイミングも失してしまう。 K金属工業のH日政博社長などは、文系の出身にもかかわらず、何年にもわたって、自らの力で改善を重ねてきた。
そのおかげで、「たいていの工具や設備の改善は、鉄を切って、溶接さえやれればできますよ」と明快だ。 必要な機械やラインを自分でつくり、必要に応じて改善できるかどうかは、T生産方式を推進するうえで大切なポイントの1つだ。
同社の場合、T生産方式の導入と並行して、流れ作業に必要な設備・道具づくりと技能上資格の取得にも励んだ経緯がある。 なんでも他人任せでは、改善の継続はむずかしい。
「保全」は、機械設備を完全な状態に保つこと。 そのためには日ごろから大切に取り扱い、十分な手入れを怠らない。
「機械は壊れるのではなく、壊すことのほうが多い」のだから、使用している部署による予防保全が大切になる。 「修繕」と「修理」は厳密に分けて、「保全はいいが、修繕はダメだ。
修理をしろ」という言い方をする。 「修繕」では、機械が故障したときに、単に部品を替え、応急処置をするだけで、真因を潰していない。

だからまた故障する。 これでは単に「表面を繕った」にすぎない。
機械が故障したときには、なぜ故障したのか、その原因をきちんとつかんで、再び同じ原因で止まらないように、徹底的な調査が必要だ。 現場がいくら早くしてくれといったとしても、本当の原因がわかるまでは決して直してはいけない。
真の原因をつかんで、無理を退ける。 それこそが「修理」である。
修理の積み重ねと日々の保全、絶えざる改善こそが、最終的には故障をしない、止まらないラインをつくる。 Tの工場やT生産方式を導入している企業を見学した人がもっとも驚くのは、見学に来た人の会社ではすでに廃棄してしまったような機械が平然と置いであり、手づくりのからくり人形のような機械や道具がたくさん動いている実態だ。
その様だけを見ていると、なぜこの企業が、日本や世界のどこにも負けないモノづくりをしているのかが理解できない。 さらに、じっくりと見ていると、いずれの機械も格好はともかく、実に使い勝手がよくできているのに驚かされる。
ハイテクだITだというと、何もかもコンピューターに頼った、最新の機械があって初めて、世界一のモノづくりができるような錯覚に陥る。 実は自分たちの知恵をふんだんに活かした、自分たちでつくりあげた設備だからこそ、本当のモノづくりが実現できる。
ましですべてを外注に頼っているようでは、自らの知恵を活かす話などできはしない。 モノづくりの実現には、知恵を活かした、自らの力で生み出した設備が欠かせない。
なおかつ常に真因に迫る「修理」と「改善」の積み重ねしかない。 目標が達成できなかったとき、なぜできなかったのかという追求は誰にでもできる。
もっとも最近は、かつての「バブルがはじけた」に代わって、「不況のせいでモノが売れない」「デフレで売上げが落ちた」「中国からの輸入が圧迫している」といった、どこか他人ごとのような理由をあげる人も多い。 さまざまな理由をあげる。

どんなに不況のせいにしようが、現実の社会には需要はあるし、モノは動いている。 需要があるのに、注文がこないのは、ただ単に需要に対応できないだけの話ではないだろうか。
どこにも負けないモノづくりをしている企業には注文が殺到し、これというセルスポイントを持たない企業の受注は著しく低下している。 せっかく考えた売上げ不振の理由も、本当にそうなのかを疑ってみたいものだ。
そもそも自分の力でどうにもならないのを未達の理由にあげているようでは、本当の原因追求はできない。 それだけに、円高不況にも動じなかった。
もちろん不況を「できない理由」とは考えるはずもない。 むしろ「よく売れる部門より、売れないで弱っている部門を担当するほうが、それだけ差し迫った改善のズがあってやりがいがある」と考えるタイプの人だった。

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